東京・麻布十番「イル・マニフィコ」で青森フェア開催中
青森県こだわりの食材によって広がる
シチリア料理の美味なる領域

カウンター含め30席ほどある店内は落ち着いた雰囲気。奥には半個室のように仕切られたスペースもある。

イタリア料理の老舗から個性的な新店まで、さまざまなタイプの店が並び、しのぎを削る東京の麻布十番。「イル・マニフィコ」もこうしたイタリア料理の激戦区でシチリア料理の名店として愛され続けています。今回のフェアでは、そんな人気店の中林一晃シェフがオーナーの大木高志さんとともに、青森を訪れて受けた感銘を絶品のイタリアンに昇華させてゲストを楽しませています。

生にんにくのフレッシュな風味にインスパイアーされて
スパゲティーの新メニューが誕生

イタリア料理において、にんにくはさまざまなシーンで登場する重要な食材のひとつ。
「青森県が日本有数のにんにくの産地であることは以前から知っていたのですが、私たちが慣れ親しんできたにんにくは、ほとんどが乾燥させたもの。ところが青森県産には乾燥させずにフレッシュなまま出荷する生にんにく『りんごにんにく』があると聞いていたので、その栽培方法や生産者さんのこだわり、味わいについて確かめたいというのが、今回の産地見学の狙いのひとつでもありました」
こう語るのは、今年7月に青森県の生産者のもとを訪ねた中林シェフです。
生にんにくにりんごの名前を冠したのは、にんにくを栽培する際のたい肥にりんごのしぼりかすを混ぜたり、水やりの際にりんごの濃縮エキスをかけたりして、にんにくのまろやかな甘味を引き出しているからです。

「りんごにんにく」は乾燥せずに生のまま出荷されるので、強いにんにく臭もなく、まろやかな風味でフレッシュな味わい。収穫後は特殊な保存方法によって生の状態がキープされている。

中林シェフは、シチリアで研鑽を積んだ経験をもとに、伝統的な料理はもちろん、オリジナリティー溢れる新メニューまでさまざまな料理でゲストをもてなしていて、今回もまた、青森県の食材との出会いから、「ファビニャーナ風マグロのからすみのスパゲティー りんごにんにくのクレーマと」が誕生しました。

「ファビニャーナ風マグロのからすみのスパゲティー りんごにんにくのクレーマと」。ファビニャーナとは、シチリア最西端のトラーパニ県に浮かぶ島のひとつ。「マグロが獲れるので、ここではボラではなくマグロのからすみをよく料理に使います」と中林シェフ。

「にんにく風味にマグロのからすみの塩味がアクセントのシンプルなスパゲティーですが、生にんにくを使うことで、にんにくのフレッシュでまろやかな風味が楽しんでいただけると思います。ゲストのなかには、にんにくの香りや辛みが苦手という方もいるでしょう。でも生にんにくなら“苦手”に感じる要素が少ないので、そうした方にも抵抗なく楽しんでいただけるはずです」

東京・麻布十番「イル・マニフィコ」で青森フェア開催中
 やわらかくなるまで茹でた「りんごにんにく」にオリーブオイルを加え、ミキサーにかけて「りんごにんにく」のクレームを作ったら、これを盛り付け用の皿に伸ばしておく。
 フライパンにオリーブオイル、水、ケッパー、オレガノなどを入れてじっくり加熱する。
東京・麻布十番「イル・マニフィコ」で青森フェア開催中
 ②にゆであがったパスタを入れてなじませる。
東京・麻布十番「イル・マニフィコ」で青森フェア開催中
 ③を①の皿に盛り、マグロのからすみ、セミドライトマト(青森県産のトマトをドライにしたもの)などをのせて仕上げる。

赤身肉の旨味が詰まった「八甲田牛」は
スネ肉をじっくり煮込んで滋味深さを表現

「八甲田牛」の放牧風景もまた中林シェフにとって印象深かったと言います。
「自然豊かな環境でストレスなく肥育されている環境を目にしたら、料理人としては『自分の料理に取り入れてみたい』と思うのは当然ですね。その場合、サーロインやヒレなどの部位をグリルして提供するのももちろんおいしいのですが、肉質のしっかりしている短角種の場合は、スネ肉のような部位をじっくり煮込んだ料理もおすすめ。赤身肉の旨味が堪能できる滋味深い料理に仕上がるんです」

 鍋の中に塩をふった「八甲田牛」のスネ肉、タマネギ、ニンジン、水を入れたら火にかけ、3時間以上コトコト加熱。やわらかくなったら冷まして保存する。
 ①のスネ肉を適当な大きさにカットして、加熱した際に出たスープとともにフライパンへ。
 スネ肉を加熱した際のスープで煮たジャガイモ、さらにスネ肉と一緒に煮たタマネギやニンジンなども加えて仕上げていく。

「八甲田牛スネ肉とジャガイモ サフランのパレルモ風グラッサ」。グラッサはパレルモでよく食べられている料理。今回はこれに八甲田牛を用いた。

そして、これらの料理を引き立てるのが、「あおもりカシス」を使った「あおもりカシスとサンブーカ カシスの葉のシロップカクテル」。これはフェアの料理に合うように、オーナーの大木さんが考案したドリンクメニューです。

「あおもりカシスとサンブーカ カシスの葉のシロップカクテル」は、カシスとサンプーカの風味が融合して、ほどよくアルコールを感じるエキゾチックの味わいのカクテル。

「カシスの収穫期は7月に限られるため、カシスの実を濃縮ジュースにした『Cassis de Aomori』を使いましたが、『あおもりカシス』同様、このジュースもまた美味。サンブーカというイタリアのリキュールと合わせてみたらとても相性がよく、さらにここにカシスの葉とバジルで風味づけをしたシロップを混ぜることで、清々しさのなかに適度な甘味と複雑さが活きたあじわい深いカクテルが完成しました」と大木さん。

キール・ロワイヤルや、クレーム・ド・カシスとは違ったおいしさが、シェフの料理と響きあいます。
さらに大木さんは、「カシスの実にはしっかりとした酸味が感じられるので、旬の時期であれば、フレッシュなカシスを用いて、ノンアルのビネガードリンクとして提供するのもいいのではないでしょうか」と続けます。

シェフの中林一晃さん(右)とオーナーの大木高志さん。 大木さんが「イル・マニフィコ」をオープンさせたのは2013年。中林さんは、「エリオ・ロガンダ・イタリアーナ」、「ナプレ」の総料理長などを経て、2018年より「イル・マニフィコ」のシェフを務める。

今回のフェアで用いた食材以外にも、中林シェフが使いたいと考える青森県の食材はたくさんあって、たとえば「ホタテガイ」に関しては、「衝撃のおいしさに、これまでホタテガイに抱いていた印象が一変した」とまで言います。
「それまでホタテガイというと、個人的には、『やや大味』という印象が強かったので、使う機会は少なかった。それが青森県産はまったく違ったんです。まるでカキのように濃厚な味わいで、ヒモのぬめりまでおいしい……。サーブする直前に殻から外した『ホタテガイ』を、オリーブオイルとレモンだけで召し上がっていただいたら最高だと思いましたね」

このほか、「天然ヒラメ」「マツカワガレイ」「津軽海峡メバル」といった魚介類、津軽地区を中心に栽培され多くの品種を有する「つがりあんメロン」など、興味深い食材と出会い、また「それらの品質とおいしさを守り続ける生産者さんたちの熱意にも心打たれるものがあった」と、中林シェフは今回の産地見学を振り返ります。
「今回のフェアだけでなく、さまざまなシーズンで、その時々の青森県の旬の味を生かしたフェアを開いたら、いろんな味を楽しんでいただけると思いますよ」

ベテランシェフが織りなす、青森県自慢の食材とイタリア料理の熟練の技とのコラボ―レーション。そこから生み出されるオリジナリティーあふれる美食の世界を堪能してみてはいかがでしょうか。

イル・マニフィコ(il Magnifico)
東京都港区麻布十番1-4-3 熱田ビル1F
TEL 03-6459-1430
17:30~21:00LO
火、水休
青森フェア 開催期間 2023年8月1日~31日

問い合わせ先
青森県農林水産部総合販売戦略課
TEL 017-734-9573


取材・文/上村久留美 撮影/依田佳子